
ビール大国・ドイツに挑む日本のビール。「日本食」が人気の決め手?(撮影:岩本順子)
約5,000種類…歴史あるビール大国・ドイツ
ドイツは、世界最大のビール祭り「オクトーバーフェスト」で知られるビール大国。ドイツ人1人あたりのビールの年間消費量は約100リットルで、日本人の約40リットルをはるかに超えています。ビール醸造所数は1,492社あり、5,000種以上の銘柄があります。

スーパー「EDEKA」のビールコーナーのハンブルクらしい品揃え。ドイツでは、330mlと500mlの瓶入りが主流。330ml入りは、通常のビールで50セントから1,50ユーロ程度(約60~190円)と安価(撮影:岩本順子)
ビールのタイプも多彩です。最も多く生産されているのが、ラガースタイル(下面発酵)の「ピルスナー」で、総生産量の50%以上を占めています。ドイツのエール(上面発酵)と言われる「アルト」や「ヴァイツェン(小麦ビール)」も人気です。
ビール造りの伝統は長く、1516年にバイエルン公国で、世界最古の食品関連法である「ビール純粋令」が制定されたほど。時代に合わせ、多少変更がありましたが、ドイツ全土で今日まで守られています。
ドイツ人が「地ビール好き」な理由
宮廷や修道院でビールが生産されていた中世の頃は、家庭でも主婦がビールを造っていました。ビールは大切な栄養源だったのです。13世紀になると、ハンザ都市を中心にビール産業が発展し、やがて輸出も始まります。ドイツは長年、数多くの領邦国家に分かれていたため、地域色豊かなビール造りの素地がありました。

ハンブルクのエルプフィルハーモニーで開業している、「Störtebeker」(シュトルテベーカー)のビール・バーでは、6種類のテイスティングセットが人気(撮影:岩本順子)
このような背景から、ドイツのビールはいずれも地ビール的な性格を持ち、どこでも地元産のビールが愛飲されています。ハンブルクでも地元産の「Holsten」や「Astra」の人気が高く、「Jever」や「Beck’s」など近郊都市のビールがそれに続きます。もちろん、広域で飲まれている「Krombacher」や「Bitburger」などを好む人もいます。友人たちを見ていると、自分の出身地のビールを好む傾向にあります。

「EDEKA」のビールコーナー。増殖中のクラフトビールの価格は2~3ユーロ(約250~380円)(撮影:岩本順子)
外国産ビールも定評があり、チェコ、アイルランド、デンマーク、ベルギーを始めとする欧州の代表的なビールは大抵のレストランで置いています。最近ではクラフトビールが続々と登場し、ビール選びにビア・ソムリエが必要なほど。ビール・セミナーも大盛況です。
和食のあるところ、日本のビールあり
日本のビールは、日本人経営の和食レストランでしか味わえなかった時代もありましたが、今では寿司やラーメンなどの日本食の店や、ドイツによくあるスタイルの、タイ料理もベトナム料理も寿司も出すというアジア料理レストランで飲めるようになりました。
「キリン一番搾り(Kirin Ichiban)」「アサヒ・スーパードライ」「サッポロ」のいずれか1種類を置いているケースが多く、レストラン価格は3.50~4ユーロ(約440~500円)。ドイツ産ビールより50セント(約60円)ほど高い設定です。
アジア系食品店で流通

韓国系食品店にて。左は韓国の「Hite」、右はシンガポールの「Tiger」(撮影:岩本順子)
私がよく利用している、韓国人経営の食品店では、ずいぶん前から日本のビールを扱っています。現在では「キリン一番搾り」と「アサヒ・スーパードライ」がそれぞれ1.95ユーロ(約240円)で手に入ります。
ドイツのスーパーでも、そろそろ日本のビールが買えるようになっているのではないかと思い、市内の大型店舗を数軒回ってみました。ハンブルクでは業界トップの「EDEKA」と2位の「REWE」のがしのぎを削っています。ただ両店とも、日本のビールはまだ扱っていませんでした。

「Go ASIA」にて。「サッポロ」の左は中国の「青島」(撮影:岩本順子)
ドイツを代表するデパート「Karstadt」の食品部「Perfetto」でも見つかりませんでしたが、地下に新しくオープンしたアジア食材のスーパー「Go ASIA」には、「サッポロ」(1.99ユーロ/約250円)と「アサヒ・スーパードライ」(1.59ユーロ/約200円)がありました。
最古のビール醸造所で造る「一番搾り」と「寿司」の強力タッグ
ドイツで流通している「アサヒ・スーパードライ」はイタリア産、「サッポロ」はEU産と書かれていますが、「キリン一番搾り」はビール純粋令をクリアした純ドイツ産で、バイエルン州立醸造所ヴァイエンシュテファンでのライセンス生産です。ヴァイエンシュテファンは創業1040年、今日まで存続する世界最古のビール醸造所と言われています。
キリン・ヨーロッパの営業・マーケティングマネジャー、和田健一郎さんにお伺いすると、「キリン一番搾り」は、2009年にリニューアルし、麦芽100%で一番搾りという製法を導入したことで、ドイツでの生産が可能になったそうです。

デュッセルドルフのスーパー「Real」の寿司コーナー。(写真提供/キリン・ヨーロッパ)
和田さんの話によると、日本のビールは3社ともに、ドイツのスーパーでも展開し始めており、デュッセルドルフのスーパー「Real」では、お持ち帰り用の寿司コーナーで、すでに販売されているそうです。
日本のビールには、繊細な料理を引き立てる均整のとれた味わいがあり、ドイツで人気の日本食の最強のパートナーという形でアピールできます。現在進行中の日本食ブームに牽引されて、今後、着実に存在感を増していくことでしょう。
岩本順子(いわもと じゅんこ)
1984年からハンブルク在住。90年代は講談社「モーニング」ハンブルク支局を運営し、漫画の普及活動とドイツ語訳に従事。1999年にドイツのワイナリーで働いた後、執筆業、翻訳・通訳業で独立。 2005年からハンブルクでワインセミナーを実施。2013年にワインの国際資格WEST Diploma取得。著書に「ドイツワイン・偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)ほか。ドイツ・ニュースダイジェスト紙に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。http://www.junkoiwamoto.com
次回は3月8日、アメリカからお届けの予定です!